漢方コラム
桂枝湯とその仲間の3つの処方 その1
前回は、私の疲労と嘔吐に「桂枝湯(けいしとう)」が奏功したこと、
「桂枝湯」が漢方薬の基本の処方であることをご紹介しました。
「夏場の冷えのぼせの一例」
https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/4894
桂枝湯の仲間の処方
実は桂枝湯には、そこから派生している漢方薬がいくつもあります。
そこで今回は、その基本処方である「桂枝湯」に生薬を足し引きすると、処方の方向性が変わることをご紹介したいと思います。
今回はまずは以下の3つの漢方薬について。
桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)……桂枝湯に黄耆(おうぎ)を加えたもの
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)……桂枝湯に芍薬を加えたもの
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)……桂枝湯に竜骨と牡蛎を加えたもの
それぞれをご紹介する前に、まずは基本の桂枝湯について。
桂枝湯
桂枝湯は、5つの生薬(桂枝、芍薬、甘草、大棗、生姜)からなります。
桂皮(けいひ)(古典では桂枝)
芍薬(しゃくやく)
甘草(かんぞう)
大棗(たいそう)
生姜(しょうきょう)
桂枝湯は、これらの5つの生薬が一定の割合で配合されたものです。
桂枝湯の働き
一般的に桂枝湯は風邪の初期に使うことが知られています。
頭痛、発熱、寒気があり、汗が漏れ出るようなタイプの方に用います。
ではどうしてこの5つの生薬の組み合わせでそのような効き目を現すのでしょうか。
そのカギは、それぞれの生薬の働きにあります。
あまり細かく生薬の働きを述べても分かりにくいので、シンプルに記載されていた
「漢方業務指針第5版(株式会社じほう)」の説明をお借りします。
「桂枝は気を巡らし、表を発散し、上衝(のぼせ)を抑える。
芍薬は血行を盛んにし、筋肉の緊張を緩め、桂枝の作用を調節する。
甘草は芍薬と協力して筋肉の緊張・疼痛を和らげる。
(中略)
甘みのある甘草と大棗は消化器を守り、
大棗は胸の煩悶を治す作用がある。」
さらに大ざっぱにいえば、桂枝が身体の陽気を補い、芍薬が陰気を補うことでバランスをとっています。
ですので、桂枝湯は、どちらかというと身体の表面の陽気が少ないタイプの方が「風邪をひいてしまいそう」、「ちょっと体調が悪い」という時に早めに服用すると大事に至らなくて済む、という調整作用があるのです。
ではここで、その桂枝湯に生薬を加えた今回の3つの漢方薬についてご紹介します。
桂枝加黄耆湯
では、まずは桂枝湯に黄耆(おうぎ)が加えた桂枝加黄耆湯。
桂枝加黄耆湯は、「ねあせ、あせも、湿疹・皮膚炎」に効果を発揮します。
桂枝湯の「風邪のひきはじめ」とはだいぶ異なりますね。
では、加わった「黄耆」にはどのような働きがあるのでしょうか。
黄耆(オウギ)
黄耆は、味が甘く、微温(少し温める)働きがあります。
具体的には、皮膚の締まりを良くして、水気を去り、膿を排し、肉芽の発生を良くし、強壮の効があります(参考:漢方業務指針 株式会社じほう)。
つまり、そのような働きの黄耆が桂枝湯に加わることで、皮膚症状へ移行しているのです。
ナイモウオウギ 2015.06.12 富山医科薬科大学にて
黄耆はキバナオウギ又はナイモウオウギの根
では、つぎの処方に参ります。
桂枝加芍薬湯
桂枝加芍薬湯は、桂枝湯の中の芍薬の量を倍増したものになります。
つまり5つの生薬の組み合わせであることには変わりないのですが、芍薬が増えているだけなのです。
この処方がとても不思議かもしれません。
芍薬の量が増えることで「お腹のはり、腹痛」に効くようになります。
桂枝湯がよく使われる「風邪のひきはじめ」とはまた方向性が違いますね。
それは、芍薬の働きに「たるみを引き締める」ということがあるためです。桂枝湯の身体の表と裏のバランスの調整から、芍薬の陰を補う働きの方向にシフトしているため、「腹部の張り」に変化したのです。
この処方から、一つの生薬、分量の変化をもおろそかにしてはいけないと感じます。
芍薬
シャクヤク 2019.05.08 東京都薬用植物園にて
芍薬はシャクヤクの根
では今回最後は、「桂枝加竜骨牡蛎湯」です。
桂枝加竜骨牡蛎湯
竜骨(りゅうこつ)と牡蛎(ぼれい)が桂枝湯に加わったものです。
竜骨と牡蛎には鎮静、強壮の効があります。
牡蛎はカキの殻です。牡蛎には乾きを潤し、血気の巡りを整える働きがあります。また驚きを鎮める働きがあります。
牡蛎(ボレイ)
竜骨は、頭をやすめたり、気を落ち着かせたりする働きがあります。
竜骨(リュウコツ)
大型哺乳動物の化石化した骨 主に炭酸カルシウムからなる
従って、桂枝湯に竜骨と牡蛎が加わると、鎮静の働きが出てきて、動悸、不眠症や脱毛症に用いられるようになります。
さいごに
今回ご紹介したように、桂枝湯をベースに生薬が加わることにより、身体の不調の使用目標が変わってきます。
一つ一つの生薬の働きをおろそかにしてはいけませんね。
今回も最後までお読みいただいきましてありがとうございました!!