漢方コラム
サンシュユと腎氣を整える「八味腎氣丸」
北の丸公園
4月上旬、千鳥ヶ淵に行きました。
桜の見ごろには早かったのですが、それでも北の丸公園を歩いていたら、サンシュユの花を見かけました。
2024/04/02 北の丸公園
サンシュユは、ものによっては高さが4メートルにもなる落葉小高木です。
早春のサンシュユ~春黄金花~
サンシュユは、早春に散形花序状に黄色い4弁花をつけます。
2014/02/27 南房総
その黄色い花の様子から、植物学者として有名な牧野富太郎博士により、「ハルコガネバナ(春黄金花)」という別名がつけられたそうです。
秋のサンシュユ~アキサンゴ~
また、サンシュユは秋には綺麗な赤い実をつけます。
そしてアキサンゴ(秋珊瑚)という別名もあります。
2022/10/30 船橋日大
ところで、サンシュユの実は小鳥にとってはあまり美味しいものではないのだそうです。
なので、木の実がほかの木にある時は見向きもされず、最後に食べられるそうです。
そのため、いつまでも実が付いているので、観賞用としては好都合なのだとか。
サンシュユの想い出
16年前のある秋の日、筑波の薬用植物園に一人で出掛けました。今はもう入園ができなくなってしまったその薬草園は駅から遠く、人気も少ない中、道に迷いながら心細い思いをしてようやくたどり着きました。
そこで最初に出迎えてくれたのは、きらきらとした赤い実のサンシュユでした。
2008/10/07 筑波植物資源センター
↑ 慌ててシャッターを切ったので完全にぼやけています。
薬としてのサンシュユ~山茱萸~
さて、生薬としては、サンシュユの偽果(ぎか)の果肉が用いられます。種をとって果皮を乾かしたものが生薬の山茱萸(さんしゅゆ)です。
山茱萸には、酸味とわずかな甘みがあります。
【気味(味と働き)】:酸平(すっぱくて、温めも冷やしもしない)
【効能】:お小水が出にくい場合は出し、出すぎる場合は調整し、小腹を引きしめ、視力を増す等の働きがある。
神農本草経には「山茱萸 味酸平、心下邪気寒熱を主り 中を温め寒湿痺を逐ひ三蟲を去り久服すれば身を軽くす」とあります。
山茱萸を含む漢方薬「八味腎氣丸」
山茱萸は、八味腎気丸(はちみじんきがん)に配合されています。
八味腎氣丸:乾地黄 山茱萸 薯蕷 沢瀉 茯苓 牡丹皮 桂枝(桂皮) 附子
因みに、八味丸(はちみがん)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、腎氣丸、八味腎氣丸、崔氏八味丸(さいしはちみがん)という名前はどれも同じものを指しています。
八味腎氣丸は、お小水のトラブル(夜間頻尿、出しぶり)、腰痛、冷えなどに用いられます。
当店では、自家製剤(許可を受けて薬局内で手作り製造)の腎気丸を作成しています。
製丸機
八種類の生薬を粉砕、篩いにかけて蜂蜜で練ります。
山茱萸には粘性があるため、粉砕も篩過も難儀し大変手間がかかります。
それでも自家製の八味腎氣丸は、高評価をいただいており、せっせと作成しております。
八味腎氣丸の症例
40代女性。10時間近い尿閉。
症状:お小水がしたくてお手洗いに行くけれど、便座に座っても全く出る気配なし。
いくつか薬を飲んでも全くでず、膀胱が破裂するかと思うほど。
時間が経つにつれて疲れて横になるけれどお腹がパンパンなので寝ておられずソファにもたれかかってゼィゼィと息をする。
以下の条文から八味腎氣丸を選方。。
問曰婦人病 飮食如故 煩熱 不得臥 而反倚息者何也 師曰此名轉胞 不得溺也 以胞系了戻故致此病 但利小便則愈 宜腎氣丸主之(婦人雑病19条)
八味腎氣丸を服用すると、数分で背中の経絡が温まり、お小水が出始める。
これは11月上旬の土用の頃。仕事の多忙で溜まった疲れと、当日の薄着による寒さのための症状と思います。
山茱萸は、腎氣丸の仲間の処方にしか配合されていません。
腎氣丸類にのみ、必要欠くべからざる生薬なのでしょう。
おわりに
今回は、植物のサンシュユと、生薬の山茱萸が配合されている八味腎氣丸についてでした。
お庭や公園でよく植えられているサンシュユ。
季節の移ろいと共に、花から偽果に変わっていく様子もやはり不思議で気になりますので、またどこか公園でみかけたらチェックしたいと思います💕
最後までお読みいただいてありがとうございました!