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漢方コラム

柴胡剤の2つの処方~「柴胡桂枝湯」と「柴胡桂枝乾姜湯」~

漢方コラム

ミシマサイコ 2014/07/26 小石川植物園 

 

 

 「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」

 

井上ひさしさんの言葉。

 

私もそういう心がけでコラムを記載しようと思っているのですが、

今回のお題は少々難しく……むずかしいことを難しいまま、になりはしないか……と少々危惧しております……。

 

何が難しいかと言いますと、今回は「柴胡剤(さいこざい)」について記してみようと思っているわけです。

 

なぜこのお題にしようと思ったかといいますと、漢方相談を受けている際に

 

「柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)って、◇◇のような時につかうのですか?」

「柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)について書いているサイトを探したけれどなかった」

と言われることが続いてありまして、それならばお伝えしよう!と思ったわけです。

 

しかしながら、柴胡剤の使い方は応用範囲が広く

「こういう時には〇〇湯」

と、簡単に言えない部分があります。

それは柴胡剤に限ったことではないのですが、特に柴胡剤にはそういう側面があります。

 

柴胡剤とは?

 

ここで、柴胡剤(さいこざい)とは何かといいますと、「柴胡(さいこ)」という生薬を主として含む漢方薬のグループを指します。

 

例えば

小柴胡湯(しょうさいことう)

柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)

柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)

四逆散(しぎゃくさん)

柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

大柴胡湯(だいさいことう)

などが代表的です。 

 

では、ここで柴胡についての話の前に、まずは一般的な治療原則について申し述べたいと思います。

 

一般的な治療原則

「汗・吐・下(かん・と・げ)」

 

ひとが病に侵されたとき、どのように対応するでしょうか。

 

例えば

風邪をひいた時→→→汗をかいたら治った…

悪いものを食べてしまった→→→吐いたらすっきりした、下したら楽になった…

という経験がある方もいらっしゃると思います。

 

外から邪にあてられたとき、つまり寒さによって風邪をひいた時、基本的には「汗」をかいて邪を追い払います(「基本的には」というのは、そうではない方もいらっしゃるからです)。

 

身体の内側で邪にあたったとき、例えば、悪いものを食べてしまって、胃腸のトラブルを起こしたとき、人は「吐」いたり、「下」したりして、邪を出します。

 

こういった治療方法は、「汗・吐・下(かん・と・げ)」とひっくるめて呼びます。

 

「汗・吐・下」ではいかない時…「清解」する柴胡

 

ところが、この汗・吐・下で治らないような、邪が体の表面でも内側でもないところにくすぶってしまうことがあります。そういう場合、「半表半裏(はんぴょうはんり)」に病がある、という言い方をします。 

 

表(身体の外側)からも裏(消化器系)からも邪を出せない、という状態です。治療は「半表半裏の熱を去る」とか、邪を「清解(せいかい)」する、といいます。

 

この「半表半裏」に熱がこもる状態になるのは、

例えば、風邪が長引いてなかなか治らない時、ストレスがずっとあって自律神経のバランスを崩した時などです。

また、ホルモンバランスが崩れている時、困った症状がなかなか治らない時などにも生じます。

 

そういった時の症状としては、

みぞおちの下から肋骨の下あたりに痞えを生じることがあります。

また、体の上部だけが暑くなったり、体の上の方の一部、例えば頭からだけ汗が出たり、手足だけから汗が出る、寒かったと思ったら急に熱くなる、夕方になると暑くなる(往来寒熱といいます)、などの症状が起きることがあります。

 

そんな時に「柴胡剤」が「半表半裏」の熱を去り、邪を清解してくれることで、状態が改善する、という病態があります。

 

つまり、柴胡剤という一群の方剤のグループは、それぞれに特徴がありながらも、「汗・吐・下」でとれない邪を「清解」してくれるグループともいえます。

 

 

名前が似てる?「柴胡桂枝湯」と「柴胡桂枝乾姜湯」

 

今回は、柴胡剤のうち、特にご質問が多い「柴胡桂枝湯」と「柴胡桂枝乾姜湯」について比較してみようと思います。名前がちょっと似ているから紛らわしいのかもしれませんね。

 

先日、ある患者さまから

「柴胡桂枝乾姜湯の方が、柴胡桂枝湯よりも生薬の数は多いのですか? 名前が長いから…」と聞かれました。

 

これは比較してみると明らかですね。

 

A.  柴胡桂枝湯:

柴胡 半夏 黄ゴン 桂枝(桂皮) 芍薬 人参 生姜 甘草 大棗(9味)

B.  柴胡桂枝乾姜湯:

柴胡 黄ゴン 桂枝(桂皮) 括楼根 牡蛎 乾姜 甘草(7味)

 

ということで、A.柴胡桂枝湯は9つの生薬、B.柴胡桂枝乾姜湯は7つの生薬からなります。名前の長さは関係ありませんね(笑)

 

構成の比較

 

ある漢方薬がどういう場合に用いられるのかを知りたいとき、

古典の原文の記載を読む

構成生薬の特徴を知る

という方法があります。

ここでは、構成の特徴からみてみます。

 

A.柴胡桂枝湯の構成

 

「柴胡桂枝湯」は、「小柴胡湯(しょうさいことう)」と「桂枝湯(けいしとう)」の合方(がっぽう)(あわせたもの)です。

 

ここで、「小柴胡湯」は柴胡剤の基本処方で、「治療原則」でお話したように、「半表半裏」の熱をとる方剤です。

 

一方、「桂枝湯」は、体の表面の衛り(まもり)が弱っている時に外から邪にあてられた時に起きる症状を改善する方剤です。

 

柴胡桂枝湯の効能

 

「柴胡桂枝湯」は、それらの単なる足し算ではありませんが、胃腸症状があるとき、風邪がなかなか治らない時、慢性的な頭痛にも用いられます。

 

柴胡剤の特徴である、自律神経のバランスが崩れたとき、肝の気が旺したとき(←こういう表現が分かりにくいのですよね。これはまたの機会に…)、婦人科疾患(生理痛、更年期障害など)にも用いられます。

 

実に応用範囲が広く、病名として挙げるときりがないほどです。

例えば、胃痛、胃潰瘍、肝炎、肝機能障害、神経痛、腎炎、多怒、ヒステリー、脳症、皮膚掻痒症などに転用されています。

 

しかしながら、病名ではなく、原因や特徴的な身体症状が合うか否かで判断して用いる方が、よい治療効果が得られます。 

 

B.柴胡桂枝乾姜湯の構成

 

ここで再度構成を比較します。

 

A.  柴胡桂枝湯:柴胡 半夏 黄ゴン 桂枝(桂皮) 芍薬 人参 生姜 甘草 大棗

B.  柴胡桂枝乾姜湯:柴胡 黄ゴン 桂枝(桂皮) 括楼根 牡蛎 乾姜 甘草

 

どちらにも、柴胡、黄ゴン、桂枝(桂皮)、甘草が含まれています。

一方、異なるのは「柴胡桂枝乾姜湯」には半夏はんげ)、芍薬(しゃくやく)、人参(にんじん)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)がなく

括楼根(かろこん)、牡蛎(ぼれい)、乾姜(かんきょう)が含まれていることです。

 

つまり、両者を比較する時には、この生薬の違いを考えるとわかりやすいです。

 

柴胡桂枝乾姜湯に入っている、「括楼根」は、渇きを潤し滋潤の作用があり、水分の不足を潤します。

そして「牡蛎」は、驚きやすさを緩和したり、動悸を鎮めたりする働きがあります。

 

 

また、生姜(しょうきょう)と乾姜(かんきょう)の違いもあります。 

 

つまり、「柴胡桂枝湯」には「生姜」が、「柴胡桂枝乾姜湯」には「乾姜」が含まれています。

同じショウガでも、「生姜」は、内から外へ動きをつけ、「乾姜」は蒸して乾かしたもので、身体の中を温めます。

 

柴胡桂枝乾姜湯の効能

 

従って、柴胡桂枝乾姜湯は、柴胡桂枝湯と同様な部分もあるのですが(自律神経のバランスの乱れ、婦人科疾患に用いるなど)、どちらかというと裏に寒があり、枯燥や、気の上衝があって動悸がしたり、口が渇いたり、という状態のことがあります。 

 

ですので、柴胡桂枝乾姜湯は、冷え症(とはいってもどこかに熱のこもりがある)、貧血気味、神経過敏で、動悸、息切れ、頭部の発汗、口の乾き、更年期障害、プチ更年期症状、不眠症、神経症、かぜの後期の症状、気管支炎などに用います。

こちらも応用範囲がとても広い方剤です。

 

古典の条文

 

 

最後に、古典の傷寒論の条文を挙げます。

 

 

<柴胡桂枝湯>

 

傷寒六七日 發熱 微惡寒 支節煩疼 微嘔 心下支結 外證未去者 柴胡桂枝湯主之(太陽病下篇19条)

(傷寒にかかって6,7日、発熱し、少し悪寒がして、節々が疼き痛み、少し吐き気がして、みぞおちの辺りが痞え、外證(発熱や悪寒など)が去らない人は、柴胡桂枝湯がよいでしょう)

 

發汗多 亡陽 讝語者 不可下 與柴胡桂枝湯 和其榮衞 通津液 後自愈(発汗後病1条)

(汗をかくことが多く、陽気をうしなって、うわごとをいうようになった人は、下してはいけません。柴胡桂枝湯を与えて、その栄衛(血や気など)をととのえ、津液(身体を流れる大切な体液)を流れさせたら、おのずから治ります)

 

<柴胡桂枝乾姜湯>

 

傷寒五六日 已發汗 而復下之 胸脅滿 微結 小便不利 渇 而不嘔 但頭汗出 往來寒熱 心煩者 此爲未解也 柴胡桂枝乾薑湯主之(太陽病下篇20条)

(傷寒にかかって5,6日、汗を発しおわって、またこれを下して、胸や脇が満ちつまり、少しつっかえるような感じがして、小便の出が悪くなり、口が渇き、吐き気はなく、ただ頭から汗がでて、あつくなったり寒くなったりが行ったり来たりして、心が煩わしい感じがする人は、まだ治っていません、柴胡桂枝乾姜湯がよいでしょう)

 

条文としてはこれだけですが、ここから広く解釈されるところでもあります。

 

まとめ

 

さて、今回は、「柴胡桂枝湯」と「柴胡桂枝乾姜湯」の違いについてざっと記してみましたが……。

 

やはり、分かりにくかったでしょうか……。

 

まとめてみますと、「柴胡桂枝湯」と「柴胡桂枝乾姜湯」は、どちらも

風邪がなかなか治らない時(コロナの後遺症でも)

婦人科疾患(生理痛、生理不順、不妊、更年期障害…)

往来寒熱、腹痛、頭痛、自律神経の乱れなどによく用います。

 

違いについては、

どちらかというと「柴胡桂枝湯」を用いる場合は、胃腸系のトラブルがよりあり、また「柴胡桂枝乾姜湯」を用いる場合は、身体の内側に冷えがありつつ、渇きからくる熱のこもりの印象があるためか、内在する寒熱の振れ幅があるように、私は感じています。 

 

 

 

もっといろいろあるとも思いますが、今回はこのあたりで失礼します……。

 

 

 

井上ひさし氏のおっしゃる「むつかしいことをやさしく、やさしいことを深く……」への道は遠いです……💦

 

 

それでも、少しでもご理解のきっかけにしていただけると幸いです。

 

最後までお読みいただいてありがとうございました❣

これに懲りず、またご覧くださいね❣ 

 

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【この記事の著者】若草漢方薬局 店主 吉田淳子 
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