漢方コラム
「サプリと漢方薬の違いが知りたい!?」
先日、いつもお世話になっている美容師のAさんに
「漢方で知りたいことない?」
と聞いたら
「サプリと漢方薬の違いが知りたい!」
と即答が返ってきました。
彼女曰く、
「だって、漢方薬が薬というなら長くは飲めないでしょ。薬は身体に悪いものだから長く飲んではいけないって思っているから。でも、サプリみたいに日常的に飲めて身体に良い漢方薬があったら知りたい!体質改善的な。美容に興味がある女子は気になると思う」と。
なるほど……それは難儀なお題……💦
漢方薬はとかく誤解を受けやすく、分かりやすく単純に言うと誤解されるし、正確に伝えようとすると分かりにくくなる……というところがジレンマです。
「サプリと漢方薬の違いは、漢方薬は薬で、サプリは薬ではない」という説明では、回答にならないようです。というか、既にそれはご理解なさっているがゆえのご質問ですね。
シンプルな疑問ほど難しいことはない……。
でも、皆様がお持ちの疑問ってこういうところなのでしょうね。
ここでAさんの質問を整理しておくと以下のようになるかと思います。
①漢方薬とサプリの違いを知りたい
②漢方薬が薬なら長く飲めないのではないか
③日常的に飲めて身体によい漢方薬が知りたい
では、今回はそれらについて、できるだけ記してみたいと思います。
①漢方薬とサプリの違い
Aさんがおっしゃるように「漢方薬」は「薬」です。
サプリ、栄養補助食品、お茶ではありません。
それが①「漢方薬とサプリの違い」の回答になりますが、
それだけだと分かりづらいと思うので、もう少し掘り下げてみましょう。
漢方薬の構成~生薬からなる漢方薬~
まず、基本的なところで、漢方薬はどういうものかをみてみます。
漢方薬は、1~数種類の「生薬(しょうやく)」の組み合わせからできています。
「生薬」とは、主に植物の草根木皮、動物鉱物などを乾燥させたものです。
例えば、葛根湯(かっこんとう)という漢方薬は、
葛根(かっこん)
麻黄(まおう)
桂枝(けいし(桂皮けいひ))
芍薬(しゃくやく)
甘草(かんぞう)
大棗(たいそう)
生姜(しょうきょう)
という7種類の「生薬」からなっています。
「生薬」には、それぞれ働きがあり、特徴があります。
漢方薬に含まれる「生薬」のいろいろ
最古の薬物書といわれているものに「神農本草経(しんのうほんぞうけいorしんのうほんぞうきょう)」というものがあります。そこには、生薬が365種類掲載されています。
そこにおいて、生薬は上薬(120種)、中薬(120種)、下薬(125種)の3つに分類されており、以下のように記載されています。
- 上薬は、無毒で命を養い、長期間服用しても人に害を及ぼすことはない 身は軽くなり気を益す効果がある
- 中薬は、人の健康を守り、無毒の時も有毒の時もあり斟酌して用いる
- 下薬は、病気を治療するのが主要な作用である 副作用が多いので長期間服用してはいけない
(「神農本草経解説」森由雄著 源草社 参照)
例えば、上薬には、甘草(かんぞう)(別名リコリス、お醤油などにも含まれている)、人参(薬用人参)などが含まれ、
下薬には、大黄(だいおう)、甘遂(かんずい)、巴豆(はず)といった下剤などが記載されています。
つまり、上薬は体に無害で命を養えるもので、食品に近く、下薬はシャープに効き、現代医薬品に近いイメージとなります。
ただ、この記載はあくまでも「神農本草経」という古典の中の分類であって、実際に含まれている生薬をみると、どうかな?と思われるところもあります。考え方のご参考にしていただけますと幸いです。
医薬品「漢方薬」~効能効果としばり~
繰り返しになりますが、漢方薬は、生薬の組み合わせでできており、それらは一定の量で配合されています。
例えば、再度、葛根湯について挙げると、
葛根、麻黄、桂枝、芍薬、甘草、大棗、生姜の7種類の生薬が定められた量で配合されています。それぞれの生薬についても国の定める基準をクリアしたものでなければなりません。
つまり、一定の基準をクリアした生薬が一定の配合量で配合されていて、医薬品として認められたものが「漢方薬」です。
また、漢方薬には「効能・効果」があります。
例えば、葛根湯では、風邪の引き初めに寒気がして、汗がなく、首筋や背中の凝りがある場合に用います。そういう目標がないと使わないことになっています。
つまり、漢方薬には用いる方向性や注意事項(ある種しばり的なもの)があります。
漢方薬とサプリメント
漢方薬は、1800年前の医学書「傷寒論・金匱要略」に記載されたものがベースにあり、長い年月をかけて、「こういう症状のこういう人に使う」ということが伝承されてきています。現代において吟味されて「医薬品」として認可されたものが「漢方薬」です。
サプリメントには、単一の成分を摂取するように謳ったもの、数種類の食品を混合したもの、生薬が配合されているものなどがあります。
ここで、身体に良さそうな生薬を組み合わせたものであっても、お身体を改善する方向性が定かでなかったり、医薬品としての効能効果が認められていないものは「漢方薬」ではありません。食品や栄養補助食品の扱いとなります。
「食品」か「医薬品」か、どう捉えたらよいのか分かりにくい生薬があると思います。そういったものについては厚労省から発せられている「食薬区分」のリストに明記されています。
「①漢方薬とサプリメントとの違いについて」というより、漢方薬についてばかり述べてきた感がありますが、語り始めたら終わらなさそうなので次に進みます…💦
ではつぎに、②「漢方薬」が「薬」なら長く飲めない?
について考えてみます。
②漢方薬が「薬」なら長く飲めない?
薬の服用期間
一般的に、お身体に不要であれば、「薬」を敢えて飲む必要はありませんよね。
漢方薬も、目的とする症状が改善したら服用をやめていきます。
一方で、人によっては、体の状態を徐々に改善するため、また体調管理のために服用期間が長くなる場合があります。
漢方薬には様々なものがあり、マイルドなものから、峻烈なものまであります。
峻烈なもの、シャープに効くもの、要注意なものを知った上で、それらを避けるべき時は避け(必要であれば服用することもあり)、適切に見立てていれば、必要に応じて継続的に服用して、体調を整えていくことができます。
とはいえ、もちろん最初から長期間飲むことが前提ではありません。
ここでは、飲む長さの長短というより、どのようなことに気を付けた方がよいか、その例を挙げてみます。
漢方薬で気を付けたいことの例
例えば、有名な「葛根湯」も気を付けることがあります。
葛根湯は、風邪、インフルエンザ、コロナ感染症などに用いることができますが、長く飲むものではありません。数日勝負です。それらは体の表面をガッと温めて、外からやってきた「邪」を追い払ってくれますが、漫然と飲むと身体の中の水分バランスを乱してしまいます。
気血が充実している方なら多少のバランスの乱れではビクともしないかもしれません。ところが、年長の方、お身体が弱い方、疲弊している方、生理中の方は、短い期間でも不具合が起きることがあります。「肩こり」が効能効果にあるからと言って、漫然と使用してはいけません。
同じように注意が必要なものに、麻黄湯、小青竜湯が挙げられます。
また、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)など、「石膏」を含むものは身体を冷やす作用があるので、短期間で様子を見ながら服用すべきです。
※石膏を含んでいてもアトピー性皮膚炎や喘息で肺気(皮膚を含む)に熱がこもっているタイプの方は数か月飲んでも大丈夫だったりすることがあります。それが人の身体、症状の違いです。
漢方薬が「合わない」とどうなるの?
例えば、石膏を含む漢方薬が合わないと、体がガタガタと寒くなったり、鼻水がたら~っとでたり、お小水が近くなったり、下痢をしたり、
胃が弱い方が、胃に障りやすい漢方薬を服用すると、胃痛がしたり、
身体に熱感や炎症がある方が、必要以上に温めたりすると、体に痒みがでたり炎症が起きたり、
薬の発散力が、服用する方が持っているものよりも強すぎると、気血を失ってぐったり疲れたようになったりします。
服用する前と比べて、なんらかの不具合が生じ、利点と欠点を天秤にかけたときに良くない状況が勝っているときは、合わないと判断します。
マイナスなことばかり並べてしまったかもしれませんが、そういうことを念頭に置きながら、お身体に合うものを服用していけば、不調を改善して、健康を目指すことができます。
つまり、「②「漢方薬」が「薬」なら長く飲めない?」については、きちんとリスクとベネフィットを見据えて見立てた上で、お身体に合う漢方薬を飲んでお身体の中庸を目指す姿勢をもっていくということを条件として、長く飲むこともあり、とお答えしたいと思います。
お見立てについては当店のホームページの「漢方治療イメージ」をご参照ください。
https://www.wakakusa-kanpou.com/kampo
もしかしたら、当店を長らくご利用くださっている患者さまで、このブログをご覧くださった方は、「長く飲んでますよ~」と思われているかもしれませんね。
③日常的に飲めて身体によい漢方薬が知りたい!?
さて、ここまでお読みになってご理解下さった方は、この③についての私の回答は想像していただけるのではないかと思います。
それは、「日常的に飲めて身体によい漢方薬」は、人それぞれ、となります💦
人によって、年齢、お体質、お困りの症状はそれぞれですから……。
それでも、今回お題をいただいたAさんとはもう何年もお付き合いがありますので、Aさんの最近のご様子から頭に浮かんだ漢方薬や栄養補助食品はあります。
概念的な表現になってしまいますが、Aさんには、営血を補い、気を益すようなものが合うのではないかと思ってみていました。今度、ご紹介しますね。
当たり前のことを申し上げるようですが
漢方薬にしても、サプリメントにしても、お使いになる方が、どのような状態でどんなことにお困りなのかをお伺いして、少しずつ、様子をみながらお使いいただくことが肝要です!
そして、何よりも漫然と服用し続けるのではなく、服用していて不具合がないか、求める方法に向かっているかどうかを、確認していくことが大切ですね。
最後に
今回は、「漢方薬とサプリの違い」というお題をいただいて、その際に伺った疑問に沿って記して参りました。
結局漢方についてご理解いただきたい旨の説明になってしまったような気がします💦
最初にも申し上げたように、漢方薬について解り易く説明しようとすると分かりにくくなるし、簡単に言おうとすると誤解が生じる、というジレンマがあります。
説明ベタなところはご容赦いただきまして、ご利用くださる患者さまとは、お互いにコミュニケーションをとりながら、引き続きお体調を整えるお手伝いをさせていただきたいと思っております!
最後までお読みいただいてありがとうございました!