漢方コラム
ミルクボーイさんの漫才ネタ風に考える漢方薬の効能効果
「自分の身体に合う漢方薬を飲んで体調を整えたい!」
そう思う方は多くいらっしゃると思います。
ところが、せっかく漢方薬を買おうとしても
「どれを選んだらいいのかわからない」
「どれも婦人科的なことは書いてあるけど、似たように見えてわからない」
という経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、病院や漢方薬局で選んでもらったのに、自分の症状と、その薬の説明に書いてある「効能・効果」の説明がぴったり合っているとは思えずに心配になった、ということはありませんか?
漢方薬のパッケージに記載の「効能・効果」は、どのように捉えたらよいのでしょうか。
今回は、漢方薬の説明の効能・効果と、実際の症状との食い違いのやり取りを、ミルクボーイさんの漫才風にかき起こしてみました(不慣れな関西弁に違和感があったらご容赦ください)。
もらった漢方薬はなんやった?
相談者:あんな、おかんが最近、体調整えるために漢方薬をもらったっていうやけど、その薬の名前がわからんくなったって、困ってるんやわ。
漢方マニア:えー、それは困ったな。ほな、相談に乗ったるわ。おかんはどんな症状かいうてみて?
相談者:手足が冷えるんやて。
漢方マニア:そら当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)や。女性が冷えるいうたら、すぐに当帰芍薬散がでるねん!
相談者:うちもそう思ってな、当帰芍薬散について調べてみたんやて。そしたら、効能効果に「体力虚弱で」ってあるねんな。うちのおかん、体力虚弱やないねん。
漢方マニア:ほな、当帰芍薬散ちゃうかな。トウキシャクサンは体力弱くてシャナリとしている人にでるらしいで。こういうたら失礼やけど、おかんはしゃなりタイプやないやろ。まぁ、体力虚弱っていうてもざっくりしてる思うけどな。ほな、もうちょっと考えてみよか。ほかにどんな症状あったか教えてみて。
相談者:あと、おかんがいうにはな、頭が時々痛いんやて。
漢方マニア:そら、当帰芍薬散や、女性で頭痛があるいうたら目つぶっててもトウキシャクサンがでるもんや!
相談者:そうかぁ。おかんもな、当帰芍薬散やったようような気もする、いうてんのやけどな。調べたら効能効果に「生理不順」「更年期障害」って書いてあったらしいねん。おかんは、生理不順はあったけど、更年期障害はないらしいんやわ。
漢方マニア:ほな、当帰芍薬散ちゃうかな。当帰芍薬散は、更年期障害ある人にも使われるしな。まぁ、更年期障害いうても、色々症状あるやろけどな。ほな、当帰芍薬散ちゃうんかな。他にどんな症状あるか教えてみて。
相談者:下腹が痛いんやて。
漢方マニア:そら、当帰芍薬散や!女性が冷えて頭痛くて下腹痛い言うたらトウキシャクサンや。まちがいないやろ。
相談者:ほな、当帰芍薬散かな。でもな、その薬、煮出して飲むらしいんやわ。おとんがいうには、当帰芍薬散は「散」やから、「煎じ薬」じゃなくて「粉薬」なんちゃうかって。
漢方マニア:なるほど。おとんすごいな。確かに当帰芍薬散の「散」は生薬をすりつぶしたもんやしな。昔は薬研(やげん)っていって、時代劇で出てくるようなすり潰す道具でスリスリしてな。そういえば徳川家康も大河ドラマの中でやっとったな。ま、最近は、当帰芍薬散料(とうきしゃくやくさんりょう)っていって、元々「散」でも煎じ薬にして「料」ってつけるらしいけどな。ほな、トウキシャクヤクサンちゃうかな。もうちょっと教えてみて。
相談者:飲むと独特な味がするんやて。
漢方マニア:そら、当帰芍薬散や!あれな、当帰とか川芎(せんきゅう)とか、セリ科の植物の根っこが入っていて、セロリみたいな独特な味すんねん! ま、漢方薬はどれも独特やけどな。ほかに何かある?
相談者:おかんがいうにはな、その説明書には「貧血の傾向があり」って書いてあるらしいんやけど、おかんは人間ドックで貧血にはひっかかっていないらしんやわ。
漢方マニア:ほな、当帰芍薬散ちゃうかな。当帰芍薬散は、血が足りないタイプの人に使うらしいで。
相談者:おとんがいうにはな、それは「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」ちゃうかって。あれは、呉茱萸(ごしゅゆ)っちゅうのが独特な味らしくて、冷え症にも使うからなって。
漢方マニア:おとん!なんでそんな長い名前の薬、すらすら言えんねん! ほかになんか特徴的なことあるか教えてみて?
相談者:おとんがいうにはな、おかんは水飲みすぎちゃうか、いうんや。でな、おかんに聞いたらな、冬でも頑張って水飲んでるちゅうんや。なんでも、モデルさんが一日2リットル水飲んでるっちゅうの聞いて、あんなんなりたいからって。運動もようせんとガブガブ飲んでるらしいで。そんでな、おかんがいうにはな、めまいはするわ、むくむわ、梅雨時はなんや調子悪うてかなわん、いうんや。
漢方マニア:そら、当帰芍薬散やな!
相談者:そうかな。おとんがいうにはな、五苓散(ごれいさん)ちゃうか、五苓散の効能・効果にも、頭痛、めまい、むくみって書いてあるっていうねん。
漢方マニア:もうええわ!
効能・効果の記載と実際
相談者さんと漢方マニアさんの会話、いかがでしたか?
よくある光景のような気もします。
会話から分かるのは、おかんの体調不良にもらってきた漢方薬が、当帰芍薬散のような、そうじゃないような、効能・効果と合っていそうな、いなさそうなということですね。
では、おかんがもらってきた漢方薬は、漢方マニアさんがいう「当帰芍薬散」だったのか、その効能・効果を確認してみましょう。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
<効能又は効果>
体力虚弱で、冷え症で貧血の傾向があり疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などを訴えるものの次の諸症:月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・たちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り
やはり、たくさんの症状が記載されていますね。
おかんの症状と漢方薬「当帰芍薬散」の効能・効果の記載は合っていたのか、どう考えたらよいのでしょう。
実は、漢方薬の適応を知る手がかりは、説明書の効能・効果以外の箇所の記載にもあります。
それは、構成生薬です。
では、当帰芍薬散の構成生薬をみてみましょう。
当帰芍薬散の構成生薬
当帰芍薬散は、以下の6種類からなっています。
<構成生薬>(末の記載は省略)
当帰 芍薬 川芎 沢瀉 茯苓 白朮
この構成生薬から何が分かるのでしょうか。
ざっくり言うと、「当帰(とうき)」「芍薬(しゃくやく)」「川芎(せんきゅう)」は、血の巡りを整える働きがあります。
また、「沢瀉(たくしゃ)」、「茯苓(ぶくりょう)」、「白朮(ビャクジュツ)」は水の流れを調整する働きがある生薬です。
これらの組み合わせからなる「当帰芍薬散」は、血の巡りを改善し、水の巡りを整える漢方薬といえそうです。
つまり、当帰芍薬散の「効能又は効果」は、いずれも、血が不足しているタイプの血行不良と、水の滞りが原因の方が生じやすい症状が記載されていたのでした。
おかんの状態を漢方の視点で捉えたい
一方、おかんの症状はというと、「冷え」「頭痛」「生理不順」「下腹痛」「めまい」「むくみ」「梅雨時の不調」でした。
それらの症状は、血が身体を潤して末端まで巡っていなかったり、うまく血が巡らなかったゆえに子宮付近に瘀血となっていたためだったり、必要以上の水分が体のある部分に留まったために起きることがあります。
そう考えると、おかんには血の流れの悪さ、水の滞りがあったのではないかと推察できます。つまり、血の巡りを整え、水の過多をさばく「当帰芍薬散」は合っていたかもしれません。
(トウキ 2012.6.12 静岡にて)
とはいえ、実際のところ、もう少しおかんの体調に関する情報を知りたいところです。
例えば、
〇冷えの程度。どんな時に、どの程度冷えるのか
〇頭痛はどのような時にどのあたりが痛むのか
〇生理不順があった、ということですが、どの程度の生理不順だったのでしょう。生理不順とご本人が思っていても、よくよくお話を伺うと、案外正常範囲だった、ということもあります。
〇下腹部痛はどのような時にどんな痛みなのか
〇めまいはどのようなめまいか。いつからあるのか。
〇お小水の出具合、お通じの具合
〇貧血とはいわれていなくても、漢方的に見て血行の悪さの指標はあったのか、なかったのか。
〇胃の具合は悪くないか。
〇実際のお顔色、姿勢、声の出し方、息遣い、視線の様子、メンタルの状況などなど…。
漢方薬の処方は、たくさんありますので、症状を詳しくみていって、異なる原因が見いだされたならば、違う漢方薬を用いた方が良い、ということは当然ながらあります。
お見立ての実際は、ホームページの「漢方について」に簡単に図式化しています。ご参照いただけると幸いです。
https://www.wakakusa-kanpou.com/kampo
さいごに
私どもが相談を承っているとき
患者さまのお身体の中で血や水、氣の流れはどうなっているか
冷えと熱、陰と陽、五臓六腑の具合はどうか
必要な生薬は何か
症状について書かれている古典の条文はあったか
そんなことを思いながら症状をうかがっています。
お身体の状態は、季節によっても、生活習慣によっても、家庭や職場の環境によっても変化していきます。
その変化をとらえつつお身体のバランスの乱れの原因を考察し、その原因を改善するように漢方薬を用いることが大切になってきます。
一般的には、症状の記載のあるなしでそのお薬と合っているか否かを判断しがちなのですが、構成生薬も見ていただけるとよいと思います。
さて、話を元に戻すと、ミルクボーイさん風漫才ネタのおかんの薬は結局何だったのかここでは定かではありませんが、おかんのお体調、漢方薬でよくなるといいですね!