漢方コラム
気の衝き上げに用いる3つの苓桂◯◯湯 その3
めまいや頭痛、動悸が症状として表れるとき、様々な要因があります。
今回は、ひきつづき表虚(身体の表面の陽気が足りない)のタイプの方に用いる「3つの苓桂◯◯湯」についてご紹介します。
3つの苓桂◯◯湯
繰り返しになりますが
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)
苓桂味甘湯(りょうけいみかんとう)
これらの漢方薬は、構成する4つの生薬が名前に表されています。
赤字以外は、茯苓(ぶくりょう)、桂枝(けいし)(実際は桂皮を使用)、甘草(かんぞう)です。
それらの特徴は、ざっくり表現すると;
茯苓(ブクリョウ):水(身体の中を流れる大切な栄養のある水分)の巡りを整える(余分なものは排出し、不足しているところには届ける)
桂枝(ケイヒ)(実際は桂皮(けいひ)):体表を温めながら陽気を補い、のぼせを下げる
甘草(カンゾウ):緩めて、通りを良くする。
それら共通の3つの生薬について、「その1」に
https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/5535
苓桂朮甘湯について、「その2」に記載しました。
https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/5566
今回は、残りの二つ
苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)
苓桂味甘湯(りょうけいみかんとう)
のうち「苓桂甘棗湯」についてみていきたいと思います。
苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)の構成
苓桂甘棗湯は
茯苓(ぶくりょう) 桂枝(けいし) 甘草(かんぞう) 大棗(たいそう)
の4種類から構成されています。
前述の共通の3つに加え、大棗(たいそう)が配合されています。
では、大棗とはどのような生薬なのでしょうか。
大棗(タイソウ)の働き
タイソウ(大棗)は、ナツメ(棗)の果実です。
ナツメ 2020.10.3金沢大学にて
大棗の効能について、荒木性次先生は「攣引とはひきつり引かるる事なり、強急とはこはばりつまるなり、則ち大棗に緩和の効あるものと見ゆ、又大棗には血の循りを良くするのハタラキあり。」と記されています(「新古方薬嚢」方術信和会)。
また、神農本草経には
「味甘平、心腹邪気を主どり中を安んじ脾を養い十二経を助け胃氣を平にし九窮を通じ少氣少津液身中の不足大驚四肢重を補い百薬を和し久服すれば身を軽くし年を延ぶ」
とあります。
棗の味を知っている方は多いと思います。
甘くておいしいですね。
気味は「甘平」甘くて、温めも冷やしもしない。
因みに他の3つは、
茯苓は甘平(かんへい)、甘くて、温めも冷やしもしない
桂枝は辛温(しんおん)、辛くて温める
甘草は甘平(かんへい)、甘くて、温めも冷やしもしない。
4つのうち3つが「甘」ですし、「辛」の桂枝はシナモンの辛さですからこの処方は比較的甘くて飲みやすいといわれます。
苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)の働き
これらの生薬の気味(味と働き)と効能を考え合わせると、
桂枝の辛温で体表を温め、体表が虚しているのを調整し
茯苓で津液(身体をめぐる身体を構成する水気、リンパ液細胞液など)を巡らし整え、
甘草で緩めて通りをよくし、
大棗で引きつりやこわばりを緩め、血の巡りを良くするを緩和する。
この苓桂甘棗湯は、苓桂で衝き上げを下げながら甘みでホッと緩めて、不安感をやわらげる方向に働き、そのために動悸やのぼせを緩和する、と私は捉えています。
「その2」でご紹介した「苓桂朮甘湯」は、より津液のバランスが悪くなっている方で、
この「苓桂甘棗湯」は、より不安感や恐怖感がある方で、動悸や眩暈がある方にお使いいただいています。
古典の記載
約1800年前の古典には、以下のような記載があります。
發汗後、臍下悸者、欲作賁豚、茯苓桂枝甘草大棗湯主之
読み方:はっかんご、せいかきするもの、ほんとんをなさんとほっす、ぶくりょうけいしかんぞうたいそうとう、これをつかさどる。
さいごに
今回は「苓桂甘棗湯」をご紹介しました。
前回の「苓桂朮甘湯」との違いは、たった一味。
骨格は似ているのでベースの状態は似ているのかもしれませんが、方向性が変わりますね。
眩暈や動悸が起こる原因には様々な漢方的視点があります。
漢方薬を選ぶときは、原因、体質、その時の状態を勘案します。
一つの漢方薬を服用したら、じっとお身体の反応を観察してみてください。
その漢方薬を飲むと呼吸が楽になった
調子がよく感じた、
ということだと良いのですが
飲んでいてもよいことがなく症状が改善されないのであれば、処方を見直した方がよいでしょう。相談しましょう。
では、今回はこのあたりで。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。