漢方コラム
気の衝き上げに用いる3つの苓桂◯◯湯 その2
めまいや頭痛、動悸が症状として表れるとき、様々な要因があります。
今回は、前回にひきつづき表虚(身体の表面の陽気が足りない)のタイプの方に用いる「3つの苓桂◯◯湯」についてご紹介しています。
3つの苓桂◯◯湯
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)
苓桂味甘湯(りょうけいみかんとう)
これらの漢方薬は、構成する4つの生薬が名前に表されています。
赤字以外は、茯苓(ぶくりょう)、桂枝(けいし)(実際は桂皮を使用)、甘草(かんぞう)です。
それらの特徴は、ざっくり表現すると;
茯苓(ブクリョウ):水(身体の中を流れる大切な栄養のある水分)の巡りを整える(余分なものは排出し、不足しているところには届ける)
桂枝(ケイヒ)(実際は桂皮(けいひ)):体表を温めながら陽気を補い、のぼせを下げる
甘草(カンゾウ):緩めて、通りを良くする。
それら共通の3つの生薬について、「その1」に記載しました。
https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/5535
では、赤字で表した生薬についてみていきたいと思います。
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
苓桂朮甘湯は
茯苓(ぶくりょう) 桂枝(けいし) 白朮(びゃくじゅつ) 甘草(かんぞう)
の4種類から構成されています。
前述の共通の3つに加え、白朮(ビャクジュツ)が配合されています。
では、白朮とはどのような生薬なのでしょうか。
ビャクジュツ
ビャクジュツは、オケラ又はオオバナオケラの根茎です。
オオバナオケラ 2015.6.12 富山医科薬科大学にて
オケラ 2020.10.06 金沢大学にて
白朮の効能について、荒木性次先生は「水をさばきその滞りを除きよく小便を調う。故に小便不利、小便自利を治す」と記されています(「新古方薬嚢」方術信和会)。
(以前のコラム「水の巡りを整える「当帰芍薬散」の3つの生薬」
https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/2528
にも詳述しています)
また、白朮の気味(味と働き)は苦温(くおん)です。
つまり、苦くて温める働きです。
私は、この「苦温」が大切だと思っています。
因みに他の3つは、
茯苓は甘平(かんへい)、甘くて、温めも冷やしもしない
桂枝は辛温(しんおん)、辛くて温める
甘草は甘平(かんへい)、甘くて、温めも冷やしもしない。
これらの生薬の気味(味と働き)と効能を考え合わせると、
桂枝の辛温で体表を温め、体表が虚しているのを調整し
茯苓で津液(身体をめぐる身体を構成する水気、リンパ液細胞液など)を巡らし整え、
白朮の苦温で血を温め、水分バランスを整え
甘草で緩めて通りをよくする、
と私は捉えています。
つまり、苓桂朮甘湯は、身体の表面が虚していて、冷えもあり、津液のバランスが悪くなっている人の眩暈や動悸に使います。
逆の言い方をすると、そういう条件がない場合、眩暈や動悸があってもスパッと効かない、と思います。
古典の記載
約1800年前の古典には、以下のような記載があります。
傷寒、若吐、若下後、心下逆滿、氣上衝胸、起則頭眩、脉沈緊、發汗則動經、身爲振振搖者、茯苓桂枝白朮甘草湯主之
読み方:しょうかん、もしくはとし、もしくはくだしたのち、しんかぎゃくまん、きのぼってむねをつき、おきればすなわちずげんし、みゃくちんきん、あせをはっすればすなわちけいをどうず、みしんしんとようをなすものは、ぶくりょうけいしびゃくじゅつかんぞうとう、これをつかさどる。
(意訳)寒さにあたり、もしくは吐いたり、もしくは下したりした後、みぞおちの下に詰まったような感じがして、気がつき上げて胸をついて、起きると頭がくらくらして、脈が沈んで緊で、汗が出ると身体が揺れるような人は茯苓桂枝白朮甘草湯がよい。
さいごに
今回は苓桂朮甘湯の説明のみとなってしまいました💦
残りの二つはまたの機会に。
眩暈や動悸が起こる原因には様々な漢方的視点があります。
症状、体質、原因などを勘案して用いるとスッと改善します。
また、同じ処方名でもエキス剤ではなく、煎じ薬にするとその効果がハッキリと表れることはよく経験することです。
私も、エキス顆粒を用いたけれど治らず、煎じ薬のチカラを信じて服用しなおして治ったという経験があります。
使いようですね。
では、今回はこのあたりで。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。