漢方コラム
桂枝湯の仲間の処方 その3
少しばかり涼しさも感じられるようにはなりましたが、まだ厳しい暑さは残っています。
皆様いかがお過ごしでしょうか。
暑さ寒さの感じ方は人それぞれですので、そろそろ冷房やサーキュレータへの当たり方も変わってきました。
「もう当たりたくない」という方もいらっしゃれば
「暑い!暑い!」という方も。
この違いはどこから来るのでしょう。
漢方では「陰」と「陽」のバランスを考えます。
体表と身体の内側の「陰陽」のバランスという視点があります。
表の衛りの弱い方は陽虚であり、風にあたるのが苦手な傾向があります。
「桂枝湯(けいしとう)」は、身体の表面の衛り(まもり)が弱い方が、風邪をひきそうになったり、気の衝き上げが起きたときに用います。
この「桂枝湯」は漢方薬の基本のキの処方で、ここから派生して様々な症状に対応している漢方薬が多くあります。
ということで、ここ最近、桂枝湯の仲間をご紹介しています。
その1では、桂枝湯と、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/4981
その2では、小建中湯をご紹介しました。
https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/5033
今回は「桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)」をご紹介してみましょう。
桂枝加厚朴杏仁湯の構成生薬
桂枝加厚朴杏仁湯は、桂枝湯に厚朴(こうぼく)と杏仁(きょうにん)が加わったものです。
効能・効果としては、「身体虚弱なもののせき」となっていますが、それだけではちょっと分かりにくいですね。
桂枝湯は、桂枝、芍薬、甘草、大棗、生姜の5つの生薬からなり、
(その特徴については、その1の投稿をご覧ください)
https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/4981
そこに厚朴と杏仁が加わっているのですが、どういう方向性になるのか
一つずつ生薬の特徴をみてみましょう。
厚朴(こうぼく)
厚朴(こうぼく)は、ホウノキ又はシナホウノキの樹皮です。
こうやって生薬の写真を見ても茶色っぽくて、他の生薬と区別がつきにくいですね(笑)。
そこで私は、原植物を確認するようにしています。
そうすると、少し特徴が理解できるような気がしてきます。
ということで、ホウノキはどんな植物か確認してみましょう。
ホウノキは、オオノキといわれたり、ホホノキと呼ぶ方もいらっしゃいます。大きな葉っぱに大きなお花をつける高木です。
20190508 新宿御苑にて
モクレン科らしい美しいお花です。
大きな葉は、朴葉味噌として利用されることが知られています。
厚朴(こうぼく)の効能について、荒木性次先生は、
「苦温、腹を温め腹満を除く。又胸満、咳、喘、上気等を治し、或いは咽喉の塞へを治す。併しその根元は腹満にあり」とされています(新古方薬嚢)。
つまり、お腹が冷えてしまっている人のお腹を温めて、気を通して、咳や喘を治します。
杏仁(きょうにん)
杏仁は、ホンアンズ又はアンズの種子です。
20190529 広島大学にて
杏仁(きょうにん)は、杏仁豆腐や杏露酒(シンルチュウ)の原料としても知られています。
古典の薬徴(やくちょう)には、効能について
「胸間の停水を主治す、故に喘欬を治す。而して旁ら短気、結胸、心痛、形體浮腫するを治す」と記載されています。
「仁」は種で、例えばアーモンドやゴマを想像すると分かりやすいと思いますが、ヌルっとした油分があります。この油分と杏仁特有の成分から、胸のゼイゼイとした欬や喘を緩和するものと思われます。
桂枝加厚朴杏仁湯とは
そのような欬や喘を治す厚朴や杏仁が桂枝湯に加わった「桂枝加厚朴杏仁湯」は、
表虚の(身体の表面の陽気が少ない)人が、ゼイゼイいうような時や、喘息のある人が風邪を引いたような時に用いられます。
この処方は、当店では煎じ薬でご提供しています。
さいごに
さて、今回は桂枝湯に「厚朴」と「杏仁」が加わった桂枝加厚朴杏仁湯をご紹介しました。
厚朴(こうぼく)って聞いたことある、杏仁(きょうにん)って聞いたことある、という方もいらっしゃるでしょうね。
それぞれを含む処方が思い浮かぶ方もいらっしゃるでしょうね。
厚朴→半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、厚朴生姜半夏甘草人参湯(こうぼくしょうきょうはんげかんぞうにんじんとう)……
杏仁→麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)……
麻杏甘石湯の構成生薬
生薬の特徴から漢方薬の特徴を紐解き、
漢方薬の特徴から各生薬の働きを知る……
そんなことを繰り返しながら理解していきます。
皆さまのお体調のセルフメンテナンスにご活用いただけると幸いです。
最後までお読みいただきましてありがとうございました!