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漢方コラム

夏場の冷えのぼせの一例

漢方コラム

先日、志賀高原に日帰りで行ったことは前回のブログに書きました。 

https://www.wakakusa-kanpou.com/archives/4831

 

実は、その後、わたくし大変な体調になってしまっておりました💦

 

今回は、その時の症状と治方について記してみたいと思います……。 

 

発症時(8月12日19時頃)

 

志賀高原から帰宅し、疲れていたのでソファに横たわっていた。

 

ところが横たわっていることがしずらい感覚になり、起き上がると激しい嘔吐と若干の下痢がやってきた。

 

トイレに行って吐いて、そのままトイレの室内で横たわった。

 

横たわりながらも、トイレのドアの隙間から入ってくる冷房で冷やされた空気が嫌で必死にバスタオルで隙間を埋めた(←急に寒さを感じた)。

 

家の中を移動する時も嘔吐用にバケツを片手にもち

 

台所で横たわり、また嘔吐……。

何かを思い出して洗面所にいくが、洗面所でも倒れこみながら嘔吐。

 

マジでやばい。 

救急車呼ぶのかな。玄関の内カギ開けておかないとかな、など考えた。

 

そういえば小学生の頃、回旋塔という遊具でグルグル回ると必ず夜目が回って気持ち悪かったことを思い出した。 

 

まぁ、今日は10時間車に乗り続け(楽しかったけど)、慌ただしかったから疲れちゃったんだよなぁ。

 

しかし、この吐き気と具合の悪さはどうして? 

 

なぜ、そのような状況になってしまった?

 

吐きながら考えた。 

 

当日の状況

 

そもそも8/12は、朝3時に車で志賀高原へ出発。日帰り旅行。
朝の3時とは早すぎだが、運転手の姉の指示なので…。 

 

志賀高原に8時過ぎに到着。高山植物を観察した際、少々雨に当たった。

現地で2時間滞在。慌ただしいが渋滞にあわないように昼前11時に現地を出発して帰路についた。

 

帰り、運転手の姉が眠くならないように車内の冷房がきつめ。私は洋服を重ね着したりフードを被ったりした。

 

志賀高原の高山は21℃と涼しかったが、降りてきたら37℃と妙な温度変化だった。

 

強行だったが楽しく過ごせ、問題なく16時ごろ帰宅。 

 

帰宅後は椅子にもたれ、東部湯の丸SAで姉が購入してくれたプリンをコーヒーと共に食べた。ここのプリンは美味しいと評判らしく、用意周到な姉は保冷バッグを二重にして持ち帰った(笑)。

 

プリンはとても美味しかった💕

コーヒーの味が少しきつく感じた(←胃が少し弱っていたかもしれない)

 

 

食した後、椅子のリクライニングを倒して、28℃のクーラーの中で少々うたた寝してしまった。

 

 

うたた寝しそうなとき、姉から電話がかかってきた。姉はやたら元気だったが(一日運転していたのに)、私はそんなに元気が出なかった。  

 

そして、その2時~3時間後に猛烈な吐き気におそわれた。

 

最初に飲んだ薬

 

今回ほどではなかったけれど、似たような経験はこれまであった。こういう状況のときは水逆のことが多く、「五苓散(ごれいさん)」を飲んだり、足を温めたりすると改善することを経験していた。

 

今回も発症して間もない段階で「五苓散」を服用。

 

そして足を温めようとお湯に足を入れたが、却って気持ち悪くなりそうだったのですぐにやめた。

 

そして、また吐いた。

 

次に服用した漢方薬

 

洗面所で気持ち悪くて、「ヤバイ」と思いながら、頭に浮かんだのは「桂枝(けいし)」だった。

 

常備している薬たちの中から「桂枝湯(けいしとう)」を持ってきた。 

 

飲んでも吐いてしまうといけないから、顆粒を少しずつ舐めた。

洗面所で横たわりながら舐めたが、しばらくしてすぅっと楽になった。

 

救急車を呼ばないといけないかとか、このまま死んでしまうのではないかと思う程しんどかったのが、なんとも楽になってホッとした。

 

という顛末でした💦

 

考察

 

さて、今回の嘔吐は何だったのでしょう。

 

最初、プリンの卵にあたった?と思いましたが、姉が保冷バッグを二重にしていたといっていたことからしてもちゃんと冷蔵されていたし、その他の理由の方が可能性が高いと思いました。

 

結局のところ、朝早くから動き回り疲れている所に、冷房で冷やしてしまい、身体の衛りが弱くなり、気が上った、気逆による嘔吐だったのだと思います。

 

桂枝湯とは

 

今回、奏効した桂枝湯とはどのような漢方薬でしょうか。

桂枝湯は、

桂枝(けいし)

芍薬(しゃくやく)

甘草(かんぞう)

大棗(たいそう)

生姜(しょうきょう)の5つの生薬からなります。 

漢方薬で有名なものに「葛根湯(かっこんとう)」がありますが、桂枝湯に2つの生薬(葛根、麻黄)を足した7つの生薬からなるのが葛根湯です。

 

漢方薬で基本のキの処方は「桂枝湯(けいしとう)」です。

 

桂枝湯は、古典の傷寒論の一番最初に登場する処方です。そして桂枝湯に生薬を足したり差しひいたりした漢方薬が多くあります。 

 

例えば、

・桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)←桂枝湯の芍薬の量を増やしたもの

・桂枝去芍薬湯(けいしきょしゃくやくとう)←桂枝湯から芍薬をぬいたもの

・桂枝加葛根湯(けいしかかっこんとう)←桂枝湯に葛根(かっこん)を加えたもの

・桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)←桂枝湯に竜骨(りゅうこつ)と牡蛎(ぼれい)をいれたもの

 

その他、多くの処方があります。

 

風邪に重宝する桂枝湯

 

そもそも桂枝湯も葛根湯も、約1800年前に書かれたといわれる「傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)」(のちに傷寒論・金匱要略となる)に登場します。

 

セミナー講師をされている先生の中には、「現在は葛根湯は用いられるが、桂枝湯は使われない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。もしかしたらそのように思われている専門家もいらっしゃるかもしれません。

 

しかしながら、当店では何人もの患者さまが「桂枝湯があると助かる」と言ってくださり、手元にストックしておられます。

 

そういった方々は「風邪をひきそう、という時に早めに飲んでおくと事なきを得る」という声を寄せてくださいます。

 

つまり「風邪の引き初め」に服用されることが多いです。場合によっては風邪の後始末に飲まれる場合もあります。 

 

ここでお断りしておかないといけないのは、すべての方の「風邪の引き初めに桂枝湯」が効くわけではないということ。

先日、もうかれこれ20年近いお付き合いの同世代の患者さまとお話していたのは、その方がストックされているのは以前は桂枝湯でしたが、今は違う漢方薬となっており、彼女がおっしゃるには「以前はちょっと体調が怪しい時に桂枝湯を飲むと楽になっていたのに、いまは桂枝湯だとちょっとキツクて、今の処方が丁度良くて、漢方薬って年代によってもちゃんと用意されているんだなぁと思いました」と。 

そのように言っていただけると、漢方屋冥利に尽きるなぁと嬉しく感じたのでした。つまり、風邪のひき初めにも様々な処方が用意されています。

 

桂枝湯の桂枝

 

では、そのような「桂枝湯」を、何故今回の私の嘔吐に用いたのか。

 

それは、疲れた身体のままクーラーの中でうたた寝をして、身体の表面が冷え(肺の働きも低下し呼吸も浅くなり)、体表の呼吸が出来ない(陽気が巡らない)状態になってしまった。つまり身体を一つの「系」と考えると、その表面が詰まった状態で、「気」だけが異常に衝き上げてしまったから。 

 

気の衝き上げに「桂枝」が使われます。 

 

また、ここでお断りしないといけなのは、吐き気のときには、その原因によって様々なものが用意されています。

例えば

小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)

人参湯(にんじんとう)

小柴胡湯(しょうさいことう)などなど。

吐き気の時に〇〇湯、と決めてかかるのは間違いの元で、原因と症状を勘案する必要があります。

 

今回は、疲れていて陽気を減らしていた所に、クーラーで冷やして身体の外側を衛(まも)っている陽気が虚したことで発したために桂枝湯が効いたのだと思います。 

 

 

桂枝の効能

 

桂枝の効能について、荒木性次先生は「新古方薬嚢(しんこほうやくのう)」(方術信和会発行)について以下のように記載されています。

 

 

「ボク曰く桂枝は味辛温、汗を発し表を調ふ、又衝逆を主どると謂わる、衝逆とは下から上へつきあぐる勢ひを云ふ動悸頭痛息切れ肩のはり等此衝逆より生ずる者あり、表の陽気虚する時はよく此衝逆を発す桂枝よく表を救ふ故に斯く称するものなるべし。」

 

ここで「ボク曰く」とは荒木先生のお考えを述べるときに使われています。

我々は様々な生薬のこの「ボク曰く」を覚えて、生薬の特性を学びます。 

 

桂枝湯が基本のキであるように、桂枝も生薬の基本のキ。 

 

自分が大変な思いをすると、その教えや条文が改めてぐっと身近に感じます。 

 

 

桂枝が入った処方はあまたあります。 

それぞれ、その構成により特徴が変わってきます。 

 

桂枝湯は、5つの生薬からなるシンプルな処方で、それらの組み合わせが絶妙なのだと思います。 

 

 桂皮(けいひ)(古典では桂枝)

 

 

 芍薬(しゃくやく)

 

甘草(かんぞう)

 

大棗(たいそう)

 

生姜(しょうきょう)

 

 

 

おわりに

 

今回は、自分に起こった急な体調変化について記載しました。 

 

漢方治療では、その時起こっている症状と、その原因や状況を勘案して処方を見出します。 

 

ちょっと自分の体力を過信していた所があったかもしれません。

 

この経験を生かして、身体の陰と陽の流れ(氣と血の流れや身体の外側の衛りと胃腸などのバランス)をより実感できるようになりたいと思いました。

 

皆さまにも漢方治療の考え方の一端をご理解いただけたら幸いです。

 

 

どうか皆さまも疲れや冷えにお気を付けくださいね(←どの口がいう~苦笑)。

 

最後までお読みいただきましてありがとうございました!  

 

 

ニッケイ 2008年 東北大学 

 

 

 

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【この記事の著者】若草漢方薬局 店主 吉田淳子 

 

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