漢方コラム
参考症例 PMS(月経前症候群)を整えて自然妊娠へ
今回は、PMS(月経前症候群)のご相談から始まり、その後お体調を整えて自然妊娠をされた患者さまの経緯を記載します。
ご相談時のおおまかな症状を列記し、その下に青字で当方がお薦めしたものをざっと記載しました。
漢方のご相談の経緯が少しでもご参考になりましたら幸いです。
20××年1月に来局されたHさん(31歳)
【初回時の主訴】
・生理前の気分の落ち込みが激しい
・生理量の減少(最近1~2年)
【カウンセリングで分かったそのほかの症状】
足元の冷え
顔のニキビ(良くなったり悪化したりの繰り返し)
便秘がち(1週間出ない)と思うと下痢になる
お小水は遠い(1日3~4回)
生理痛は初日のみ 黒っぽい血塊あり
舌下静脈怒張
→婦人科的にも血流を改善していく漢方薬A(エキス顆粒)14日間
【その後の経過】
2月上旬
ニキビが増えた
むくみが明け方に気になる
ちょっと便秘がち
朝起きてすっきりしない・気力が湧かない
→週末のみ漢方薬B(煎じ薬)に変方。ウィークデーは前回と同じ漢方薬A(顆粒)。生理周期により漢方薬C(丸剤)を3日分
↓
2月下旬
便秘がち変わらず
ニキビは落ち着いてきた、赤みが目立たなくなった気がした
頭痛で吐いてしまったことがある(これまでもたまにあった)
茶色いおりもの
生理は数日遅れてきた
血塊あり
ガスがたまりやすい
仕事多忙 ストレスあり
→漢方薬B(煎じ薬)21日間
↓
3月中旬
生理前の落ち込みは気にならなくなってきた
年度末の多忙で心身ともに疲労 ストレスフル
多忙だと余計大便出にくい
夜はむくみでパンパン
子宝を希望している 黄体ホルモン値低いと診断されていた
→漢方薬Bの加味方の漢方薬Dに変方(煎じ薬18日間)
腎氣(生命力)を増す漢方製剤Kを追加(まずは2回分)
↓
4月上旬
大便がまともに出ていない(多忙すぎて食べる暇がない)
生理前のおちこみは良くなった
→漢方薬Dを煎じ薬で11日間
↓
4月下旬
便通はよくなってきた(きちんと食べるようにしてから改善傾向)
生理時に血塊あり
子宝を授からないのではないかと不安になることが多い
→漢方薬D(煎じ薬)17日間、漢方製剤K1日1回服用
↓
5月
自分を責める気持ちが強い
便秘がひどくなった(1週間出ない)
仕事でストレス、夫にキツイ物言いをして暗い気持ちになる
→漢方薬E(煎じ薬)に変方14日間。漢方製剤K1日1回
↓
6月上旬
生理前に落ち込みやすい
生理前に便秘、生理になると一気に出る
→漢方薬Dに戻す(煎じ薬)14日間、漢方製剤K1日1回
↓
6月中旬
気分の落ち込みは大丈夫
便秘も少し良くなった
お肌も落ち着いている
→漢方薬D(煎じ薬)18日間、漢方製剤K1日1回
↓
7月上旬
仕事が忙しくなりメンタルもきついが
お通じまずまず
疲れ感もまあまあ
→補気剤である漢方薬F(煎じ薬)に変方14日間、漢方製剤K1日1回
↓
7月下旬
落ち込みは大丈夫
冷えも大丈夫
のぼせなし
→漢方薬F(煎じ薬)11日間、漢方製剤K1日1回
↓
8月
自然妊娠が分かる(6週目)
漢方薬服用終了
翌4月出産予定
【コメント】
Rさんの主訴は生理前の気分の「落ち込み」の激しさでした。
神経質になりご主人にぶつけることもあり、皆が自分を嫌っていると感じたり、「イライラ」したりとのこと。いわゆる月経前症候群。月経前症候群といっても、症状は様々で、用いられる漢方薬も様々です。
ここで、「イライラ」と「落ち込み」という表現について。
一般的に、「イライラ」というと頭に血がのぼるような状態で、漢方では「気逆」といわれます。一方、「落ち込み」というと、ウツウツとしてこもった状態で、漢方では「氣滞」や「氣鬱」という範疇に分類されます。
しかしながら、常々思うのは、患者さまがおっしゃる「イライラ」「落ち込み」という表現を、字ずらだけで判断して、「気逆」や「氣鬱」と振り分けない方が良いということ。
つまり「イライラ」しているとおっしゃる方でも、気がこもっている(実際には「氣鬱」)の場合もあり、一方、「落ち込む」とおっしゃっていてもお身体の中では「気逆」のような態様のこともあるからです。それぞれ使う薬方が異なります。
メンタルについては、そのようなことに気を付けながら、お話を伺っていきます。
Rさんは、ニキビ、舌下静脈の怒張、舌状から、オ血(漢方でいう一つの症状で血の巡りの悪さ)がみてとれました。
生活が忙しく、疲労感が大きかったので、疲労感を改善しつつ、気血の流れを良くすることでPMSの改善を最初に目指しました。
その後、子宝をご希望ということをお話しくださったこともあり、またお疲れもあったので生命力を高めるように漢方製剤を追加で、最初はお試し程度に、その後はしっかりと服用され、ご希望の妊娠をされました。
漢方薬としては、A~Fまで6種類、血流をよくして虚を補う婦人科系漢方薬、柴胡剤(体の表面と裏側の間の熱感をとり自律神経のバランスを整える柴胡を含む漢方薬)、いわゆる氣剤(氣を巡らす漢方薬)、補剤(身体を補う漢方薬)をその都度、状態に応じて服用されました。ご無理なく、最初は顆粒で、その後は煎じ薬でしっかり体調を整えられました。
患者さまが気になっている症状が、薄皮が剥けるように取れていったり、妊娠希望の方の喜びを分けていただけるのはとても嬉しく有難いことです。
お体質や環境はそれぞれ異なりますので、お薦めする漢方薬は変わりますし、服薬の期間も変わります。
私共は、患者さまご本人が気付いていらっしゃらない生活やお体調のバランスの乱れや、逆に良いポイントなどを、ご一緒にお話ししながら洗い出し、ご一緒に良い方向に向けられるように、これからも考えさせていただきたいと願っております。