漢方コラム
生薬の国産化~①生薬流通のこれまで~
今回は、漢方薬の原料生薬の国産化について、先日聴講した学会のシンポジウムで心に残ったことを備忘録を兼ねて記したいと思います。
生薬・漢方薬の流通
そのシンポジウムの話の前に、漢方薬や生薬についての話をしたいと思います。
一般的に知られているように、漢方薬の原料の生薬(しょうやく)は、多くは植物から得られます(中には動物や鉱物もありますが種類としては少ないです)。
植物から得られるということは、化学薬品のように合成されるのではなく、自然から得られるということ。つまりは、天然品であるか、栽培して得られるということです。
天然品の方が良品と評価される傾向にありますが、天然品が入手困難になってきていること、また安定的な供給確保のため、多くは栽培されています。
栽培の場合、一般的には、農家さんにより畑で栽培されます。できた作物・植物が乾燥などの加工を施され生薬となり、生薬問屋さんにより買い付けされ、私どものような漢方薬局に納入されるか、製薬メーカーにより加工され、ドラッグストアや病院で販売・処方される顆粒や錠剤などの漢方薬となります。
こういうと簡単そうな流れに思われるかもしれませんが、生薬の確保には様々な課題があります(私どもには切実な問題だったりします…)。
生薬の国内生産と輸入のこれまで
現在、漢方薬の原料(生薬)は、多くを輸入に頼っています。
日本の農作物は、国内自給率が低いようですが、生薬も同様です。
生薬の国産栽培は、遡ること江戸時代、八代将軍が力を入れて進めたのが始まりだそう。徐々に栽培される品目も増え、昭和の中期ごろまで、日本国内で様々な生薬が作られていたそうです。
ところが、昭和の中期ごろ(ざっくりですが)、日中国交正常化がなされて以降、日本でよりも、中国で作る方が安くできるということで、中国に依存するようになったとのこと。
それ以降、日本国内では、生薬原料植物の産地が減り、生薬産地として有名だった地域も、高齢化と共に手が回らなくなって品質の低下が生じたと聞いております。生薬の生産農家だけでなく、日本全体として農家は減り、耕作放棄地が多くなった(畑が荒れた)ことも問題となったようです。
(中国で生産されている、というと安全性に不安を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。日本の生薬問屋さんがキチンと現地を管理し、国内での基準よりも厳密な規格の生薬を生産しています)。
そのような状況でも、中国から安価に輸入できていた頃はよかったのかもしれません。しかし、最近は中国が豊かになり、漢方薬の消費量が増えたり、中国での人件費が上がったりして、輸入生薬の価格も高騰しています。また、一部の生薬には輸出規制がかかってきています。
使用したい生薬を、十分に仕入れられなくなると、困ってしまいます。
つまり、昔は日本国内で生産していたものを、中国に頼るようになり、気がついたら価格は上昇し、さらには輸入できなくなる危惧も生じ、一方、日本国内では生産することができないくらい衰退していた、という状況になってしまったのです。
このような背景があり、いまいちど日本国内で生薬を生産しようと、生薬メーカー、農林水産省、関係団体の方々、先生方が動いてくださっている、というのがここ10数年(私が知る限り)の動きです。
私は、その国内栽培の動向や状況が知りたくて、毎年学会のシンポジウムを聴講してきました。シンポジストの先生方のお話しを伺っていても、これまでは「なかなか出口が見えなさそう。難しいものなんだな…」と感じておりました。
「生薬の国産化~②課題と解決~」へ続く